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『ヒトラー・マネー』講談社

book 第二次大戦中のナチス・ドイツによる偽金づくりの話。スリルとサスペンスよりも偽金づくりを成功させるために優れたマネジメントをしたひとりのSS少佐の動きを中心としたドキュメンタリーである。

 近代以後の戦争は国家総動員戦だ。何でも有りだ。それぞれ戦争の大義は我に有りとふりかざすが、内実はなりふり構わない大陰謀、大量殺戮、大破壊の連続だ。道徳とか正義とか騎士道(武士道も?)が顔を赤くして逃げ出す始末である。
 敵国の偽金をつくってばらまいて経済を大混乱させ継戦能力を喪失させようというアイデアなど戦争当事国としてはすぐに思いつく。だが、実行となると躊躇する国もある。この本によれば、アメリカではかのノーベル文学賞作家のスタインベック氏がライヒス・マルクの偽金を作って戦争に勝とうという提案を大統領にしたが、検討した結果(たぶん犯罪行為だと判断したのだろう)却下された。そうだよね。これで戦争に勝ってもそれ以後偽金づくりは犯罪じゃなくなる。だって大統領自ら偽金を作っていたなんてことになったら、たとえ戦争だったからといういいわけも空々しいかも。

 ところがナチス・ドイツは違った。指導者連中は歴史の事実が示すとおりきわめつけの犯罪者集団だったから偽金づくりなんかぜんぜーん平気。(日本軍はなぜやらなかったのだろう。きっと想像力が足りなかったのだ。第二次大戦中日本軍は一貫して想像力が不足していた。)いかにして本物そっくりのイギリス・ポンド札をつくるかとすぐさま作業にとりかかった。最初の偽札はうまくいかなかった。マネジメントがアバウトだったからだ。次にヒムラーからマネジメントを命令されたベルンハルト・クルーガーは有能なマネージャーだった。絶滅収容所内に偽金づくり工場をつくり完全な隠蔽工作に成功した。だってこの収容所を出られるのは死人だけだったから。
 偽金づくりをする人材はユダヤ人、捕虜などからリクルートした。これからが大事なのだがクルーガーはそれらの人材を人間的に扱った。そのことで意欲と才能を引き出した。そこらへんのクルーガーとユダヤ人たちのかけひきが実に面白い。もっともユダヤ人や捕虜たちは命がけだから面白いどころではないが。

 結局のところ、ベルンハルト・クルーガーとそのグループは本物のポンド札より本物の札を作り上げてしまった。それを各地で大量にばらまいたらしいがあんまり大騒ぎにならないうちに戦争はドイツが負けて終わってしまった。イングランド銀行は偽札に気がついて大騒ぎしたようだが、世間にはあまり広まらず収束してしまったようだ。本物を作っちゃダメだよクルーガー君。
 最近キム・なんとか君が偽金を作っていたらしいともっぱらの評判だが、これからの戦争では偽金づくりは古典的戦術になりつつある。特にドルはダメだ。アメリカ人は小切手ばかり使うからだ。これからはなんといってもコンピューター・ハッキングによる撹乱戦術が主流になるだろう。ちまたでは影の戦争はすでに始まっているといううわさもある。
 自分の部屋でひとり平和にシコシコ楽しんでいるハッカー諸氏が大量動員される日がいつまでも来ないことを祈るのみである。

 

 

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